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最高裁判所第三小法廷 昭和31年(オ)58号 判決 1957年12月24日

主文

原判決を破棄し本件を福島地方裁判所に差し戻す。

理由

(一)  論旨第一点について。

労働組合法第五条の立法趣旨は、労働委員会をして同法第二条および第五条第二項の要件を欠く組合の救済申立を拒否せしめることにより、間接に、組合が右各法条の要件を具備するように促進することにあるものと解すべきである。この点から、第五条は、労働委員会に、申立組合が右要件を具備するかどうかを審査し、この要件を具備しないと認める場合にはその申立を拒否すべき義務を課していることは明らかであつて、第二条の要件を具備するかどうかの点の審査が単なる形式的審査にとどまるものではなく、実質的にこれをなすべきものであることは(その方法・程度はともかく)、同条の立法趣旨に照らし疑を容れないところである。しかしながら、その義務は、労働委員会が、組合が第二条および第五条第二項の要件を具備するように促進するという国家目的に協力することを要請されている意味において、直接、国家に対し負う責務にほかならず、申立資格を欠く組合の救済申立を拒否することが、使用者の法的利益の保障の見地から要求される意味において、使用者に対する関係において負う義務ではないと解すべきである。それ故、仮に資格審査の方法乃至手続に瑕疵がありもしくは審査の結果に誤りがあるとしても、使用者は、組合が第二条の要件を具備しないことを不当労働行為の成立を否定する事由として主張することにより救済命令の取消を求め得る場合のあるのは格別、単に審査の方法乃至手続に瑕疵があることもしくは審査の結果に誤りがあることのみを理由として救済命令の取消を求めることはできないものと解すべきである。従って、原審が単に資格審査の方法及び内容に違法があるという理由で本件救済命令に取消事由があるものと解したことは失当であり、この点において原判決は破棄を免れない。

(二)  論旨第二、第三点について。

中央労働委員会規則第二五条は、組合が労働組合法第二条及び第五条第二項の要件を具備するかどうかということの審査が独立の処分としてなされる場合(たとえば法人登記のために資格証明書の交付申請があつた場合)にのみ適用される規定と解すべきである。しかるに、同法第五条に基く申立組合の資格審査は、不当労働行為の救済を与えるかどうかの前提としてなされるものであつて、救済命令もしくは救済申立を却下する処分と離れて独立の処分としての意義を有するものではないから、この場合の資格審査については、規則第二五条は適用がないものと解すべきである。それ故、規則第二五条に基く決定書が作成されていないということは、本件救済命令を違法ならしめるものではなく、これと反する原審の見解は失当であり、原判決は、この点においても破棄を免れない。

よつて、その余の論旨については判断を省略し、民事訴訟法第四〇七条に従い主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河村又介 裁判官 島 保 裁判官 小林俊三 裁判官 垂水克己)

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